世界陸上日本代表の杉本明洋さんと対談させて頂きました

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世界陸上ヘルシンキ大会、大阪大会の20km競歩日本代表で、5000m競歩の元日本記録保持者である杉本明洋さんと対談をさせて頂きました。

事の起こりは、なんとStravaの区間ランキングでした。こちらの、大文字山を登る区間のランキング。
Strava Segment | Daimonji Climb

昨年、東山三十六峰マウンテンマラソンにエントリーして、コース中の各区間でStravaのランキングを意識しながら練習を始めました。最初は15位くらいだった順位が、山に通ううちに10位になり、5位になり、ついには大文字の上り区間で2位まで上がりました。
ところが、1位の方のタイムは飛び抜けていて、何度通っても歯が立ちません。

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それで、「この1位の Aki Sug さんというのは、どういう方なんだろう」、とずっと思っていました。
そうしたら、その Aki Sug さんも本番の東山三十六峰を走ったログを Strava に流していて、しかも僕の1分ほど前のごく近くでゴールしてます。
どう考えても、すぐ近くにいらっしゃったんだな、と思いつつ、大会のリザルトを眺めていると、「杉本明洋さん」というお名前を発見。この方だ!、と思って、速攻でググりました(笑)。

そうしたら、なんと京都大学の情報学科出身で、世界陸上の代表選手だった方だ、ということが分かってまたびっくり。
同窓生にそんな方がいたことを知らず、ますます興味が湧いてきました。京大に在学しながら、世界陸上に出るって、どういう経緯を経るとそんなことができるんでしょう。

それから特にこれといった変化はなく、数ヶ月が経った今年の春、京大の超交流会に出ませんか、と主催の今村さんからお誘いを頂きました。
超交流会というのはちょっと変わったイベントで、元々は情報学科の同窓会だったのですが、「人が集まらないので、誰でも参加できるイベントにしちゃえ」ということで、情報学科と関係なく誰でも参加できるイベントになった、という、なんというか、「そんな無茶な!」、と感じつつ、その無茶さになにかちょっと興味を惹かれてしまうイベントです。実際、そうやって興味を惹かれた面白い人が、学科とか大学とか関係なしに、毎年集まってきます。

それで、光栄なご依頼を頂いたのは良いのですが、これまでも何回か登壇させて頂いていて、「僕が話しても特に新鮮さがないのではないでしょうか」とお返事をしたのですが、「今年は会社が上場した節目だし、出ておこうよ」と今村さんから強く推していただき、「そうか、困ったな」、と。
それで、何か今までにない面白い内容にできないかな、と考えていた時に、ふと降りてきました。そうだ、杉本さんだ!杉本さんと対談できないでしょうか、と。
杉本さんはそもそも情報学科の出身なので、同窓会にはぴったりですし、世界陸上の話もあまりこれまでお話しになられたことがないようでしたし、杉本さんのお話が聞けるならぜひ!ということで、今村さんに提案しました。
すると今村さんも動きが早く、大学の方経由で杉本さんに連絡が行き、1週間後には打ち合わせをして、出演が決まった、という返事がやって来ました。すごいフットワーク。
ということで、まだお会いしたこともなかったのですが、どういう方なのか、どうやったら日本一にまで上り詰められるのか、個人的に興味津々の杉本さんとの対談が実現することになりました。

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対談セッションの設定は、当日まで一度も会ったことがない2人が対談するというもの。ということで、本当に当日までは顔を合わさず、ぶっつけ本番で聞きたいことをぶつけてみることにしました。

ただ、二人とも自称「人前で話すのが苦手」ですので、場が持たなかったらどうしよう、という不安が(笑)。
そこでまた「西さんにモデレーターをやってもらう」という素晴らしいアイデアが降りてきました。
西さんは陸上部出身で、情報学科出身で、僕のランナー仲間で、かつ、超交流会の運営にも関わっているので、あらゆる方向の話題に対応可能です。もしも話が止まったら西さんにも助けてもらえるようお願いして、いよいよ当日です。

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セッションの関係者は全員ランナー。しかも元々のきっかけは大文字です。せっかくなんで、セッションの前にみんなで大文字に上りませんか?ということになり、まずは大文字へ。
現役陸上部競歩選手の海老原さんが部室を開けてくださり、みんなで着替えて農学部グラウンド(通称農G)からスタート。
最初は談笑しながら、お互い自己紹介などをしつつゆっくり走っていました。
銀閣寺を越え、大文字の登山道に入る辺りで、杉本さんに「お先にどうぞ」と前に行ってもらうと、「それは逃げろってことですか?」と言われ、「え?」と思っている間にどんどんペースアップ。
軽快なステップで坂を駆け上がり始めます。ちょ!は、速い!
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もうちょっと穏やかなランニングを想像していましたが、あっという間に置き去りに。
ゼエゼエハアハア。杉本さんと海老原さんにまるで着いていけません。
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途中で何回か待ってもらいつつ、また上り始めると差が開く、ということを繰り返しながら山頂に到着!
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はひー。こんなに追い込むことになるとは全く思ってませんでした。
もう、汗だくだくです。
そして、圧倒的な差を見せつけられました。
杉本さんは、とにかく、走りが軽い。上りでもずっと足取りが軽い。
それから、素晴らしく身体が安定している。真っすぐ立って、段差があってもぶれない。
きれいに真っすぐ立った棒が、トントントンっと、小刻みに軽やかに、上って行くような感じでした。
さすがでした。

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農Gに戻ったあと、一周だけ陸上トラックを走らせてもらいました。
オールウェザーのトラックを走るなんて何年ぶりだろう。気持ち良いです。
杉本さんと海老原さんは競歩してました。

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朝からとっても楽しい(そして苦しいw)ランニングの時間を過ごさせてもらいました。
そしていよいよ本番のセッションへ。

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蓋を開けてみたらもう、とにかく杉本さんのお話が面白すぎました。
さすが、日本一になられただけのことはあります。

競歩に対する杉本さんの取り組み方の特徴は、一人で追求してきた、ということです。
高校時代に指導者もいない中自分の専門種目を競歩に選び、そこから本などを読んでフォームなどを追求。
大学に入っても周りに競歩選手がいない環境の中、自分の身体と向き合い続け、速く歩く技術を進化させていったのです。
たまに外部のコーチなどにアドバイスを仰ぐことはあったそうですが、練習の内容なども自分で考え、基本的に一人でずっと、身体と対話しながら日本一まで上り詰めていった、という内容がとても印象に残りました。

一人でそんなことができるのか、と思います。

具体的に、身体と対話しながら改善をする、というのはどういうことなのか聞いてみたところ、ちょっとしたバランスの変化を感じながら修正をしていく、と。たとえば腕時計を右手につけるか左手につけるかを変えるだけで、左右のバランスが変わるので、それを修正していく、と。想像できない繊細さです。

他の有力選手の中には、力で押し切る選手も多いけれども、自分には力はないので、技術で対抗するしかない、ということで、ひたすら自分と向き合って技術を向上させたことが、結果的に日本一になれた要因だった、ということでした。

すごいです。やっぱり。
なかなか文章にするのは難しいですが、生でお話を聞いて、とてもまっすぐで、内面にものすごい時間をかけてひとつのことに打ち込み続ける力を持ち、強く、明るく、いさぎよい、すがすがしい心を感じました。

どうしてこんなに面白いお話を、これまでだれも聞き出さなかったのだろう、と不思議に思います。

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自分自身もどちらかと言うと、一人で黙々と何かをやるのが好きなタイプです。杉本さんも、そちらのタイプでしょう。
ただ、チームでやらないとなかなか大きなことができなかったり、今の社会で仕事をするには、組織の中でチームワークが求められることも多いと思います。
一人でやる方が向いている人間が、どうやって行くのが良いのか。
杉本さんは、世界で戦うためには、チームで取り組まないといけなかった、チームが必要だった、ということを仰っていました。やっぱりそうなのか、と感じました。
世の中的にも、コミュニケーション力を高めよう、ということが言われていたり、個人的にも会社を上場させたり経営していく時のチームワークの重要性を感じています。
ただ、僕が今回感じたのは、どちらかと言うと、「一人でもそこまでできるのか」ということでした。一人で、自分の身体とひたすら向き合い続けることで、日本のトップまで上り詰める。そんなことができるのか、というのが、今回感じた一番鮮烈な驚きでした。

確かに大きなことを成し遂げようとした時には、チームワークが必要になる時がありますが、これだけの長い時間、一人で集中し続けられる人もなかなかいないと思います。それは、ものすごい才能であり、力なのではないか。
もしも一人でやることが得意ならば、その強さを大切にし、活かせば良い。
必要な時にうまく他の人の力も借りつつ、自分の強みを大事にすれば良いのではないか。そんなことを思いました。

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恒例のkatchaman夫妻を交えての記念撮影。とても楽しい一日になりました。
今村さん、楽しい機会をありがとうございます。西さん、セッションの不安を支えてもらってありがとうございます。おかげさまで安心して話ができました。わざわざ聞きに来てくれた皆さん、ありがとうございました。そして杉本さん、お会いできてうれしいです。
ありがとうございました。