Andorra Ultra Trail Mític 112km(その4)

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Envalira(77km)からゴールOrdino(112km)へ

なんだかんだと言いながら、いよいよ最後の区間です。
Envaliraエイドで眠ろうと決めて、睡眠用のテントに入ってみたんですが、地面の上に担架が並んでいるだけで、毛布などはなし。テントに隙間が空いていて、外の風が入ってくる。自分が持っている防寒着を着て横になりますが、寒い。こんなところで寝ていたら、どんどん体が冷えてしまう、と思い、結局5分くらいで諦めました。やっぱり山小屋の方が快適です。
身体が芯から冷えてしまって、ここからの行程に向けて、暖かい格好を持っていったほうが良いんじゃないか、と思い、ドロップバックに念のため入れていた長袖のフリースと、長ズボンを着たまま出発。(これは余計でした)
数百m登ったところで、すでに暑くなってきて、長袖長ズボンを脱ぎました。もう荷物を預けられるエイドもなく、仕方ないのでザックに押し込んで運んでいきます。

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ここからゴールまでの道を簡単に言うと、「3回上って、3回下ってゴール」です。
あと3回上れば終わり、なんですが、一つ一つがいちいち500-800mくらい登ります。

最初の上りは、登山道があるようなないような。牧草地を無理やり直登していくような場所があって、まあ、どこを通っても良いけど、コースの旗を目指して進んでね、という感じでした。

傾斜も急で、ゆっくりゆっくり歩いて上っていきます。

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随分上ったな、と思って振り返ってみると、先ほど越えてきたPessonsや、長い下りの道、今上ってきた道が見えます。
なかなかすごい景色です。ものすごく広大な景色なんですが、人はほとんどいません。

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広大な景色の中にいる自分、という感じの写真を撮りたかったんですが、顔が大きすぎました。

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稜線まで出ると、しっかりした道が出てきて、尾根沿いにVaques峠を目指します。

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Vasque峠を越えると、ここからは下り。
途中に湖があったり、湿原のような場所があったり、こちらも広大な景色です。
いよいよ、日が暮れてきました。次のエイドまでは、明るいうちにたどり着けるでしょうか。

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なんだかふと、「一体自分は何をやっているんだろうか」と考えてしまいました。
こんな、アンドラの山奥で、これから日が暮れようとしている時間帯に、ぽつんと、でかい山に囲まれて、とぼとぼ一人で歩いてます。
一体何をやってるんでしょうねw。よくよく考えると、ちょっとおかしいですよね。
思わず一人で笑ってしまいました。
なんなんでしょうね、いったい、ほんと。

84kmのInclesエイドに、21時40分ころに着きました。ぎりぎり明るいうちに到着です。
Aプランよりは1時間くらい前を進んでいます。

ここまでの下りが長かった。
下りが長いのもつらいんですが、次の峠がさっきの峠よりも標高が高いことが分かっているので、「今下っているよりもさらにたくさん上り返さないといけない」と思うのがつらかった。

Incles(84km)からComs de Jan(92kmへ)

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エイドでヘッドライトを点けて、夜の準備をして次の峠に。
Cresta Cabana Sordaへの上り。最後の3つの中でも、一番標高差が大きい上りです。
ここからは夜のパート。ヘッドライトの明かりを頼りに、一人で山に入っていきます。

夜道を一人で進むのは少し心配でしたが、幸いコースに関しては迷うことはほとんどありませんでした。
コースを示すマーカーの三角の旗やテープに反射板がついていて、ヘッドライトを照らすと遠くの方までマーカーが反射して光って見えます。
マーカを見つけるのは、むしろ昼間よりも夜のほうが見つけやすいくらいでした。

つらいのは、とんでもなく上の方に、前を行く選手のライトが見えること。
「え、あそこまで行くの?」というくらい高い場所で、ヘッドライトが光っているのが見えます。
まあでも、標高差800mですもんね。
とぼとぼと、一歩一歩、足を進めて上っていきます。

辺りは真っ暗。止まると寒いので、なるべく止まらずにゆっくり歩き続けます。
ペース的にはもう、大文字山をこどもとのんびり上っているより遅いようなペースです。誰でも着いてこれるような。

暗くなって、だんだん眠気が出てきました。
どうも僕は、身体が左に傾く癖があるらしく、ぼーっとしていると左に倒れそうになって、「おっとっと」と体勢を立て直すことが増えてきました。
左側に何かがあればいいですが、斜面になっていて左が落ちている場所は要注意。ふらっと落ちてしまわないように、なるべく右側に寄って歩いていました。

遠くに牛がうずくまってこっちを見ているな、と思ったら、大きな岩でした。そうか、これが幻覚か。
その後も、人が座っているように見えたり、小人みたいな人が立っているように見えたり。
「これはさすがに、本物の人だろう」と思っても、やっぱり岩だったり笑。
途中からだんだん、幻覚を楽しむようになってきました。「え、これも偽物なの?」みたいにw。

それからなぜか、後ろからストックをついて人が近付いてきている音がずっと聞こえます。
それで、振り返ってみると、誰もいない。
もはや、抜かされるのが嫌、とか、そういうんじゃないと思うんですけど、気付かなくて前を邪魔したら悪いな、と思っていたので、そういう気持ちが現れるのでしょうか。ストックの音は、ずっと後ろから聞こえていました。幻聴なんですかね。

眠気でどうにも朦朧とするので、たまに立ち止まって、ストックに頭をくっつけて、10秒ほど目をつむったりしてました。
あとは、歌でも歌ったら目が覚めるかも、と思って歌を歌ってみたり。
これは最初は少し元気が出るんですが、残念ながら長い歌の歌詞を最後まで思い出す元気がなかったり、新しい歌を考える元気がなかったりで、同じ歌の同じフレーズを何度も繰り返すだけなので、すぐに飽きてしまいます。

なんかよく分からないんですが、宇多田ヒカルの「花束を君に」が頭に流れてきて、
「ふだんから〜、メイクしない〜、君が〜、薄化粧した〜、あ〜さ〜」
みたいな歌を、アンドラの山奥で歌ってました。
朝ドラでとと姉ちゃん毎日観てたからですかね。

と・に・か・く、上りが長いんですw。

「あの稜線まで行ったら峠かな?」と思っていた場所にたどり着いたんですが、
そこからまた続きがある。しかも激坂の直登。
え、これまっすぐ上っちゃうの?みたいな激坂の一番上に、ライトが点滅しています。
どうやらスタッフの方がそこにいて、こちらを照らしているようです。
「あそこまで行くのか・・・」

もう、ちょっと自分がすごいな、と思えてきました。
人間って、こんなにたくさん上れるんだ、と。
昨日からずっと、山を上ったり下ったり。
これでもか、ってくらい上ってきたのに、まだ上ってる。
普通に考えたら、身体壊れるんじゃないか、というような道のりなのに、それでもまだ一応歩けている。
人間の体ってすごいな、と純粋に思いました。
今まで自分が知らなかった自分です。

スタッフの方が待っているCresta Cabana Sordaの峠にようやく到着。
「2.5km下ったらエイドだよ」と教えてもらい、「意外と近いな」って思いましたが、やっぱりそんなにすぐには着きません。
下りもペースが上がらないのが原因なのですが、遠くに見える小屋と思われるぼんやりした光をめがけて、ずっと歩いていって、ようやくComs de Jan(92km)エイドに到着です。

小さな小屋で、スタッフのみなさんが温かいです。
温かいスープを頂き、少し目をつむって眠ります。
が、「大丈夫か?」「横になるか?」「寒くないか?」みたいにみなさんが順番に声をかけてくださって、結局眠れませんw

暖炉の近くで少し温まらせてもらい、少し目をつむって休み、出発。
いよいよ、最後の上りです。次は標高差500mでCollada Menersまで。

だいたいエイドとエイドの間は毎回10kmくらいです。
10kmと言ったら、普段のトレーニングだったら1時間とかで走り抜けてしまえるので、そんなに遠くないやん、って思うんですけども、
アンドラだと3時間です。3時間って、短いトレランレースできちゃいます。

また、次の3時間か、がんばろう、と、真夜中(時間は0時半)の山に向けて歩きはじめます。
ちなみに食料は、ジェルをたくさん持っていったのですが、エイドの温かい食べ物がありがたくて、特に後半はほとんどそれだけで賄っていました。
3時間の行動中は、1本ジェルを食べるか食べないか、くらい。
エイドのスープに、パスタやライスなど、炭水化物を放り込んでもらって、それをスープと一緒に食べる。2杯くらいお代りする。
あとは生ハムとチーズとフルーツを頂いて、スポーツドリンクを補給して出発、というパターンでした。
「お代わりください」って言うと、みんな笑顔でよそいでくれるのでうれしかったです。
そうやって交流できることが、元気をもらえました。

最後の上り、Collada Menersを越えてSortney(100km)へ

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Collada Menersまで、最後の上りもまた、「あそこまで行けば終わりかな?」と思っていた場所から、さらに奥がありました。
だんだん驚かなくなっては来ましたが、やっぱり大変です。なかなか着きません。

ここにも、ピークの手前にスタッフの方がいて、「もうそこまで上ったら終わりだよ」と教えてくれます。
こんな深夜に、こんな山の上で、スタッフをしてくれているなんて、ありがたいです。大変ですよね。

ピークを超えると、いよいよ最後のくだり。
ゴールまでは15kmありますが(結構ありますよねw)、もう上りはない、というのはやっぱりすごい。
さすがにここまで来たら、完走はできるな、と確信しました。

最後のエイド、Sortney(100km)をまずは目指します。
長く単調な下りを下っていると、あまりにも眠く、途中で一度座り込んで目を閉じました。
数分後に目を覚まし、歩こうと立ち上がりますが、「あれ、どっちから来たっけ?」と分からなくなりました。
下りといっても、このあたりまで来るとかなり平坦に近く、一体自分がどちらから来たのか自信が持てません。
あたりをつけて歩き始めたら、また道が下り始めたので正解だったことが分かりましたが、ちょっと怖くなりました。

最終エイド、Sortney(100km)。そしてゴール(112km)へ

泥にはまったり、歌を歌ったり、牛じゃない牛が現れたりしながら、ようやくSortneyに到着。
ここで驚きの再会が。なんと中にのりさんがいるじゃないですか!

しかも、なんだかスマホをいじってるw
どうしたんですか?と聞くと、「少し前に着いて、そろそろ近藤さんが来るかなと思って待ってました」とのこと。
えー。

で、なんでスマホいじってるんですか?と聞くと、薫さんに朝ゴールする、って言ったので、このまま行くと予定より早すぎる、とかなんとか。
なんすかそれw。まさかの約束を守るために時間調整?

とにかく、そういう平常心を保った感じののりさんに出会えたことで、急に元気になりました。うれしい!
ここからはのりさんと一緒に行くことに。
話しながら走れるので、一気に眠気も吹っ飛びました。

「薫さんは途中まで2位で走っている情報は得ていたけど、その後何位でゴールしただろうか」(あえて結果は見ずに走っていました)、とか、
「きみのさんは77kmでリタイアしちゃったんだろうか。途中で天気が良くなってきたから、思い直してそのまま走り続けたりしていないかな」、とか、
別の場所でがんばっている仲間の事を、あれこれ話していました。

しばらく進んでいくと、自分たちがちょうど31時間以内にゴールできるかどうか、ぎりぎりのところで走っていることが分かってきました。
ここでのりさんが、「近藤さん、30時間台でゴールしたいですか?」と聞くので、「はい、できれば」と答えました。
が、よくよく計算してみると、ラスト約5kmで残り35分。キロ7分で走らないと31時間を切れません。

「じゃあ行きますか」ということになって、まさかのここからダッシュw。
のりさんがまた早い。着いていくのがやっとです。
というか、着いていけません。

何度か僕が遅れて待ってもらい、「もう諦めてゆっくり行きますか?」と声をかけてもらいますが、
「いや、やれるだけやりたいです」と言って、走り続けました。

それでも、ペース的にはキロ6分くらいで走れていたので、「これは間に合ったんじゃないかな」と思っていたんですが、ゴールがなかなか現れない。
5kmを過ぎてもゴールにたどり着かず、まだ道が続いています。
「あれ、距離の見積もりが甘かったな」。

結局、さらに1kmほどありました。やっとゴールの前の建物が見えてきましたが、時間は残り1分ほどw。しかも最後に上ってます。
うわー、これは間に合わないかも。。。

最後まで必死で走ってゴール。

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それでこんな顔になってますw。
タイムは・・・31時間1分0秒。31時間切りから1分オーバー。
頑張ったんですけど、距離が1km長かったのは想定外でした。
ちょっと残念ですけど、まあ、いいですね。それもまた。

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最後の1kmは、僕の時計でキロ4分56秒でした。112km走って、まさかの最後にキロ4分台。
ゴールしたら、地面に倒れ込んでしまいました。しんどすぎ。

でも、ちゃんとゴールしました。ついにやり遂げました。
朝の5時にゴールしたので、ゴール地点には人がほとんどいません。

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これが、日本からライブカメラでゴールシーンを見てくださっていた小野さんが撮影してくれた、ゴールの様子。
笑ってしまうくらい、人がいないです。

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仕方がないので、自分たちでもう一度ゴールシーンを再現して、iPhoneで写真撮ってもらいました。
やった!ゴールしたよ!
のりさん、ありがとうございます!!

結果は31時間1分。二人とも、84位。
2人で手をつないでゴールしたら、同着にしてもらえました。これも嬉しかった。(手をつないでるのに、わざわざ順位を付ける必要ないですよね)
Sプランの28時間には及びませんでしたが、プランAは32時間ゴールの想定だったので、それより1時間早くゴールです。なんだかんだ言って、そんなに悪くないです。

が、とにかく、完走できたのがうれしかった。
こんなコースを、自分が走りきれたことが、絶対にこれからの自信になると思いました。

(まだつづきます)